「やせたい」命落とす危険
「大根足やな」。彼氏に言われた一言が始まりだった。中学1年の終わりのころ、大阪府のC子さん(20)は身長160センチ、体重50キロで標準より軽いくらい。バスケット部員で太ももの筋肉は発達していた。この言葉が乙女心を傷つけ、ダイエットへと駆り立てた。
米など炭水化物を食べずに、豆腐、サラダ、ヨーグルトなどを「主食」とした。「やせてきれいになったね」。周囲に、そう言われるのがうれしかった。中学2年の春から生理がなくなり、不安になった。「妊娠できない体になるのでは」
約8か月で体重が15キロも減った中学2年の夏休み。母親に連れられ、大阪警察病院(大阪市天王寺区)産婦人科で思春期外来を担当する甲村弘子さん(大阪樟蔭女子大教授)の診察を受けた。
「思春期やせ症」と診断された。一般的には拒食症と言われるが、思春期の拒食は、将来の健康に大きな影響を与えることから、特にこの病名がある。
女性が圧倒的に多く、中高生では100人に1人との推計もある。身長などから算出される標準体重より15%以上やせていて肥満への恐怖感がある場合などに診断される。C子さんはマイナス35%だった。
やせるために、食事を極端に抑えると、栄養失調により、脈が遅くなる徐脈や貧血、脱毛、むくみなど様々な症状が表れる。無月経も、そのためだ。
国内外の調査によると、不整脈や自殺などが原因で、診断から10年間の死亡率が6%にもなる。甲村さんは「このままだと命の危険がある」と諭し、心療内科医を紹介。連携して治療にあたることにした。
体重計に乗って減量を確認することが唯一の楽しみだったC子さん。減量を始めてから約1年後の中学2年の終わり頃には体重が30キロを切った。そこに至って、「このままではいけない」と目が覚めた。
母親が少しずつ、食事量を増やしたが、小さくなった胃は食事を受け付けない。涙がポロポロこぼれ、母親に何度も謝った。「35キロになったら沖縄旅行」「次はディズニーランドね」。母親の心遣いがうれしかった。
それから6年の間に体重は45キロに戻り、2年前、生理が来るようになった。旅行会社で元気に働く。
甲村さんは「思春期やせ症は、うつ病など精神の病気が加わる重いものから、軽いものまで様々。早く見つけて治療することが大切で、親、学校関係者は注意して子供たちを見てほしい」と話している。(読売) Tweet