地面の下の温度は年間を通じてほぼ一定。そんな地中熱の特徴を建物の冷暖房に役立てる省エネルギー技術がある。住宅への利用は海外で進むが、国内ではまだわずか。二酸化炭素の排出削減に太陽光エネルギーがもてはやされる今、足元にも目を向けてみた。(片山健生)
リビングでは、天井の空調機器が静かに温風を吐き出していた。大阪府羽曳野市の島津輝雄さん(67)宅。冷たい風が吹いた十一月下旬にも室内は二六度に保たれ、心地よい。島津さんも「音が静かで、体に優しい印象です」と、地中熱利用の冷暖房に満足げだ。
地中の温度は深さ五メートル以下なら、年間を通して一五度程度。夏は気温より涼しく、冬は気温より暖かい。その温度差を地上で活用すれば、エアコンなど冷暖房機器の負担が減り、消費エネルギーを抑えられるというのが、地中熱を利用した省エネ技術の基本的な考えだ。
地中熱の一般的な活用方法は、エアコンの心臓部に当たる「ヒートポンプ(HP)」との連携。地中に埋設した配管内で循環する不凍液を介し、地中と熱交換する。具体的には、暖房時の冬は地中から熱を受け取り、冷房時の夏は熱を地中へと送り出す=図参照。
地中熱の有効利用に関心を持つ建築や環境、エネルギーなどの関連事業者でつくるNPO法人「地中熱利用促進協会」(東京)によると、空気熱を利用する通常のエアコンより電力消費が三割程度抑えられる。
二〇〇七年に建てられた島津さん宅も同じシステム。自宅の基礎を兼ねて五~七メートルの深さまで垂直に埋めた筒状のくい約四十本の中に、延長約三百六十メートルの樹脂製配管を挿入。その配管内で不凍液が循環し、熱交換を行っている。
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地中熱の利点は多い。必要なシステムは地面さえあれば原則的に設置でき、埋設してしまうため、その後の維持管理の手間もごくわずか。太陽光発電と違い、天候や昼夜の影響も受けない。冷房時に出る排熱は地中に送るため、通常のエアコンのような室外機はなく、ヒートアイランドの原因をつくらない。
しかし、国内での地中熱の利用は、一定の支持を得ている海外と比べてさっぱりだ。同協会によると、HP連携型の普及台数を出力十二キロワット規模の民家向けで換算した場合、国内では千五百台程度(〇八年)にとどまっている。最も早くから普及が進んだ米国で、既に四年前までに六十万台に達しているのと比べても微々たるものだ。
主な原因は高額な設置費用にある。国土が急峻(しゅん)な日本では、平野部の堆積(たいせき)層が複雑なため掘削費がかさみやすい。新築時にHP連携型を導入する場合だと、機器や設置の費用は二百七十万円程度。普及が進まないため、スケールメリットが働かず、コストは高いまま。手が届きにくいため、関心も高まらない。そんな悪循環を断ち切れないでいる。
同協会の服部旭事務局長は「地中熱は場所にとらわれず、二十四時間利用できる地産地消のエネルギー。でも、システムが屋根の上にある太陽光発電と違って地味」と歯がみし、太陽光発電のような設置費補助の制度づくりを行政側に求める。
先進環境技術の効果を第三者が実証実験する環境省の事業で本年度、地中熱がヒートアイランド対策技術の分野で実験対象になるなど、追い風も吹いてきた。
東京都内で建設が進み、完成すれば世界一高い六百三十四メートルの自立電波塔となる東京スカイツリーに地中熱利用の冷暖房システムが導入されることも決まり、同協会は知名度向上への弾みにと期待を寄せる。(東京)