童謡「ぞうさん」などの作詞で知られる詩人まど・みちおさんが来月十六日に百歳を迎える。アルツハイマー病を患いながら11月には新作詩集出版、今なお精力的に詩作に励む。一世紀生きて世の中から見えたこととは-。
まどさんは入院先の談話室に車いすで現れた。節くれ立った指、ほおに刻まれたしわ。樹齢千年の巨木のような存在感がある。
「私は算数がよくできないんですが、どうやらそのようでごさいます。今も詩とはいえないものをどうにか書いております」。長寿をたたえるとユーモアで歓迎された。
詩作は二十代から始めた。この年まで続く精力的な詩作の原動力は「不満」だ。「遠くにも近くにも。政治家に、警察の人に、学校の先生に。金もうけ、いんちき。無学の私も言わずにおれない現状です。戦争もなくなりません」
自身の矛盾にも向き合う。日々の食事にもそれを感じてきた。
「とにかく野菜を食べます。肉は一切食べず、毎朝、タタミイワシをぱくぱく食べる。生き物を平気で食べて残酷なことをして『いかにも優しそうなこと言えるのか』と言われそうですね」
百歳まで、どれくらいの生き物を自分の命の糧にしてきただろうか。
「人間はどんなことも頭で考えられますが、生き物を殺さないで生きること、つまり同時に二つのことはできないのです。この年になってはっきり分かったことです」
代表作「ぞうさん」は、子ゾウの母親ゾウへの思慕を表しているが、そこには子どもへのメッセージがある。
「『鼻が長い』と言われればからかわれたと思うのが普通ですが、子ゾウは『お母さんだってそうよ』『お母さん大好き』と言える。素晴らしい。人の言うことに惑わされて自分の肝心な部分を見失ってしまうのは残念です。幼い子を見ていると一人として同じではない。うれしくなります。成長は時間がかかりますが、長い長い長い夜もぽっと明けることがありますよ」
「世の中に生きるものはすべて、たった一つの存在です。そのものがそのものであるということ。それだけでありがたく、うれしく、尊いことです」
この思いの蓄積から得た感慨も詩につづった。詩作は続く。手探りだが、敏感な感性は衰えず創作を支える。
「生きていると必ず、毎日、新しく見つけるものがあります。人まねをしないのはもちろん、過去の自分のまねをしていないかいつも確かめながら、飽かずに書き続けていきたいです」(東京)