医療の力を過信しない
肺結核による死亡者が減ったのは、ツベルクリンやBCG、抗生物質の発見、投与のおかげと考えられていますね。ところが、予防接種や抗生物質の投与が始まった時期は、もう結核死亡率が下限になった時でした。つまり、予防接種や特効薬が結核の死亡者を減らしたわけではない。これは驚きでした。結核が減ったのは、経済的に豊かになって栄養状態が良くなったことが要因だったのです。
風邪にしても、普通に生活していれば、あわてることはないんじゃないかと僕は考えます。マスクは風邪の予防に役立たないと聞いていますし、僕は使ったことがない。医学のおかげで何かの病気が制圧されたという説は、かなり疑ったほうがいいのではないかと思いますね。近藤誠先生(慶応大学講師)の本で勉強させてもらったことです。
一般に考えられているほどには、大きな役割は果たしてこなかったのではないかと思います。栄養のあるものを食べることができて、お風呂に入ることもできる、つまり清潔で規則正しい生活をできるようになったことが、長寿の決定的な要因ではないでしょうか。
現代医療では、脳疾患、心疾患、がん、この3つ以外はほとんど駆逐できたわけです、例外はありますけど。この3つは明らかに、年をとればとるほど累増的に増えていきます。病気というよりはライフサイクル、老化です。老化を食い止めることはできないわけですから、制圧は難しい。
痛い時と苦しい時です。僕は痔で苦しみましたが、治療を受けて本当に助かった。何年も、まともに座れませんでしたから。妻は胆石症で苦しみましたが、1週間くらいで完璧に治してもらいました。
しかし、検査をやめてから、この12年間は病院にはまったく行っていません。気にもなりません。妻もまったく行っていません。実際にやってみれば、こういう生き方が一番楽だとわかります。年齢にもよるでしょうが、痛い、辛いという症状が出てから対応すればいいのではないでしょうか。なんの症状もないのに、検査で異常をひっかけるようなことは問題です。もっとも、50歳の時は僕もなかなかそういう考えにはならなかった。このような考えに至ったのは、還暦を過ぎてからでした。(著書「人間ドックが『病気』を生むの渡辺利夫さんインタビューから」(読売) Tweet