お化けを見つける脳
「この部屋には霊がいる!」。お化けを信じている自称『霊能者』の友人は、一緒に旅館に泊まると、決まってこう大騒ぎします。
「お化けが存在する証拠」と彼女が見せる写真の背景には、何もないはずの空間なのに、確かに悲しげな顔のようなものが…。
でも、このように壁や影の濃淡模様が人の顔に見えるのは、人間の脳に特有な働きのせいだとも考えられるそうです。脳が人の顔を認識する仕組みを研究している、生理学研究所(愛知県岡崎市)の柿木隆介教授に伺いました。
「壁や天井、柱の模様が人の顔に見え、そこばかり気になることはありませんか? これは、顔のようなものを見ると脳の働きが高まるからです」と柿木教授。同じ模様でも、顔のようだと思って見るときと、ただの模様と思って見るときでは、脳の働きが違うそうです。
たとえば、コンピューター画面上を左右に往復する二つの点を見ているとき、人間の脳では「動き情報」を専門に処理する「第五次視覚野」が働きます。動きや色、線などの情報は、それぞれ脳の各部分が分担して処理するのです。
ところが、この動く二点に、二点を囲む円(顔の輪郭)や直線(口)を加えると、点の動きは変わらないのに、格段に第五次視覚野の働きが強まります。脳は顔のような情報を見つけると、一生懸命に働き始めるのです。
「人間が助け合って生きていく上で、互いの顔に注意することはとても大切。そのため、脳には顔を見つけて注意を払う仕組みが備わっているのでしょう」と柿木教授。こんな脳の仕組みが、集合写真の背景や壁の模様に『顔』を生み出してしまうわけです。
よく、「自分の目で見たものしか信じない」と言う人がいますが、実は、人間の脳は目から届く情報を都合よく取捨選択し、「見たいもの」や「見る必要があるもの」を求めて働くのです。(東京) Tweet