必要最小限の「単剤療法」
三重県四日市市の統合失調症の男性(36)は、アパートで独り暮らしをしながらアルバイトに励んでいる。市内の精神科病院「総合心療センターひなが」を4年前に退院し、薬は1日1種類だけ。副作用の少ないタイプの薬を必要最小限の量使うことで、病状は安定しつつ、日常生活も支障なく送っている。
しかしこの男性も1997年、同病院に初めて入院した時には、全く違う治療を受けた。2種類の抗精神病薬を含む4種類の薬を使い、吐き気やだるさなど副作用に苦しんだ。そのせいで退院後は薬を飲まなくなり、通院もやめてしまった。
被害妄想が強まるなど病状は悪化し、2002年暮れに再び入院。ところが、今度は前回のような大量の薬が使われることはなかった。実はちょうどこの頃、同病院は治療方針を大きく変えようとしていた。
この年の夏、日本で精神科の国際学会が開かれた。抗精神病薬を2剤以上使うのは効果より副作用などのマイナス面が大きく、世界では1種類のみ使う単剤療法が標準だ。これに対し、多種類、大量の薬を使うのが一般的な日本の特異さがクローズアップされた。
同病院も当時、例外ではなかった。海外との違いに衝撃を受けた院長の藤田康平さんは、薬を減らすための取り組みを始めた。
「担当医一人で治療を決めていることが、安易に薬を増やす一因」との反省から、毎週1回、21人の常勤医全員が集まり、新たな入院患者の治療方針を話し合うようにした。各医師ごとの処方量は半年ごとに一覧表にし、処方量の多い医師には改善を促した。
自分が病気だという認識がなく「薬は必要ない」と拒む患者を無理に薬で抑えようとすると、治療への抵抗感から余計に大量の薬が必要になる場合がある。看護部副部長の中村よしみさんは「時には1時間以上も患者と話し合い、薬の必要性を納得してから飲んでもらうようにした」と話す。
こういった取り組みで、統合失調症の入院患者における1種類の薬だけを使う単剤化率は、2003年には27%だったのが、この男性が退院した2005年には54%へと大きく増えた。
単剤化率の高さは、病院選びの指標になる。しかし、読売新聞が5月、全国の主要病院に行ったアンケートでは30%台が最も多いなど依然低い施設が目立ち、90%台から0%まで格差があった。藤田さんは「患者の社会復帰のためにも、単剤化は欠かせない」と訴える。(読売) Tweet

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