通夜・告別式をせず、遺体を火葬するだけの「直葬」。もっともシンプルな葬送スタイルとして定着しつつある。背景には、費用問題や高齢化、核家族化などがある。簡素化する弔いは社会の「今」を映し出している。 (飯田克志)
「数字で把握はしていないが、十年前に比べて四、五人で参列する直葬と思われるケースは増えている」
年間約一万三千五百人、国内の死者の約1%を荼毘(だび)に付す「戸田葬祭場」(東京都板橋区)の村川英信研究開発部長は、こう直葬の状況を話す。
直葬は、遺体を病院や自宅から直接火葬場へ移送▽家族らは火葬場に集まり、火葬炉前のホールで最後のお別れ▽火葬後、収骨して火葬場で解散-が基本的な形式。火葬の際に僧侶に読経を依頼する場合もある。都内での葬儀費用は会葬者百人ほどで百万~二百万円といわれるが、直葬だと十五万~三十万円程度だ。
だが、直葬はもともと、身寄りのない人が亡くなった場合や、生活保護を受けている人が葬祭扶助の範囲で費用を収めるための葬送方法だった。
景気低迷で生活保護世帯は増加。葬祭業「富士の華」(千代田区)の野田穂積代表は「生活保護の方の利用が年々増え、想像以上」と驚きを隠さない。経済的理由が直葬志向を後押ししている。
さらに大きな社会変化も関係しているようだ。「長寿化が大きな要因」。葬送問題に詳しい第一生命経済研究所の小谷みどり主任研究員はこう指摘する。「八十代だと子どもも定年になっていて付き合いも減り、きょうだいも亡くなっていることもある。そもそも家族以外で参列者がほとんどいない。葬儀が私的な儀式に変わってきている」
別の要因もある。十年ほど前から直葬プランを提案してきた「佐藤葬祭」(世田谷区)では現在、三割ぐらいが直葬という。佐藤信顕代表は「周囲のことは気にせず、『面倒くさいから直葬』という感じの人がここ数年増え、最近は半数がこのタイプ。特に団塊の世代が多い」と明かす。
「近くに親族がいない。ふだんの付き合いもない」と佐藤さん。核家族化の進行で親族との関係が希薄化した。高齢者からも「子どもに負担をかけたくない」「親しい人だけで」などの考えが強まり、こうした背景も直葬が増える要因になっているようだ。
トラブルもある。町会役員だったある高齢男性の葬儀を直葬にしたところ、付き合いのあった会葬者が一般の葬儀並みに来てしまった。故人の生前の交友関係の確認は必要だろう。近くに親族がいない人の場合、行政が葬儀を手配するが、遠方の親族が遺骨の受け取りを拒んだケースもあったという。
直葬の普及とともに葬祭業者も新サービスを登場させている。戸田葬祭場は五年前、火葬前に家族が故人と過ごす小部屋を斎場に設置した。毎年四百~五百件の利用がある。富士の華は、直葬と共同墓による永代供養をセットで生前契約するサービスを提案。自身の墓を不要と考えたり、子どものいない夫婦の関心が高いそうだ。
直葬専門をうたう業者も増え、費用十万円を切る広告もある。葬儀相談業「リリーフ」(川崎市)の市川愛代表は「金額には大きな差はないかもしれないけれど、葬儀社の対応をみるために、最低二社は見積もりを取ってほしい」と助言する。(東京)