Monday, January 03, 2011

宇宙から見る 人の営み

パソコン画面に現れた東南アジアの地図。点灯する赤い光が時間とともに移動し、やがて消えると青にとってかわった…。
 赤は地上の大規模な炎の動きを、青は水の存在を示します。東京大学生産技術研究所の竹内渉准教授(環境・災害リモートセンシング学)は「ベトナムやラオスでは四、五月が『火入れ』の時期。農家が田んぼに火を放ち、雑草を焼くのです。火入れが終わると田んぼに水が引かれます」。
 竹内准教授は人工衛星で炎と水の動きを観察し、人間活動をグローバルに見つめています。ギリシャ神話の火の神、水の神が人間を見守っているかのように、宇宙から地球を観察するのです。
 炎からは特有の赤外線が、水分からは可視光線が放出されます。その光を米航空宇宙局(NASA)の人工衛星「テラ」と「アクア」が観測しているのです。両衛星は高度約七百キロを一周百分で南北に回りながら炎や水の情報を送ってきます。
 それだけでは海と川、火山と森林火災の区別はできません。「既存のデータベースなど、さまざまな情報を組み合わせれば区別できます。火山と森林火災の区別も、世界中の火山や大火災のデータを組み合わせて行います」と竹内准教授。
 インドネシアのボルネオ島には約四万種の生き物がいます。衛星観測の結果、この島では頻繁に火災が起き、生物たちが危険な状況にあることがわかってきました。
 日本の環境省の支援で、現地の人に火災現場に行ってもらい、火災前後の写真を集める取り組みを三年前に始めました。その結果、火災が繰り返される泥炭地は、地面がむき出しになって乾燥し、燃えやすくなっていることがわかりました。
 衛星と地上の情報を組み合わせた統合的な観測システムを、東南アジア各国と共同で森林管理に応用する試みも進んでいます。
 豊かな森林のインドネシアは、開発や山火事の影響もあって世界第三位の二酸化炭素排出国でもあります。竹内准教授は「衛星観測で地球の健康状態を診断できる。環境や災害など複雑化する社会問題の解決には、俯瞰(ふかん)的な視野で戦略をたてる必要があります」と話しています。科学が社会のありかたを変えていくのです。 (高橋里英子)(東京)

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