Sunday, August 22, 2010

治り早い『湿潤療法』 専用ばんそうこう張るだけ

屋外活動が増える夏。露出した肌にけがを負うことも少なくない。外傷の治療は消毒して乾燥させる方法が主流だったが、最近は染み出す体液の働きを生かして、乾かさずに治す「湿潤療法」が広まってきた。(杉戸祐子)
 東京都荒川区の自営業男性(53)は二〇〇七年七月、交通事故で右足のすねにけがを負った。二日後に激痛に襲われて受診すると、患部が化膿(かのう)し皮膚の腐食が進んでいた。入院し、患部を消毒しガーゼで覆う治療を受けたが、症状は悪化。尻の肉を切除し移植する治療を勧められた。
 男性は「移植以外の方法を探す」と決め、外傷治療に湿潤療法を取り入れている「柿田医院」(杉並区)を受診した。柿田豊副院長(小児外科)から、傷口を水で洗い、密閉性が高く傷口を乾きづらくする被覆材(ばんそうこう)を張る方法を勧められた。
 「そんな簡単な方法で治るのか」と疑念も抱いたというが指導通りにすると、「数日したら突然明らかに回復し始めた。新しい皮膚が盛り上がってきた」。一カ月後にほぼ完治した。
 入院中はガーゼ交換のたびに患部についたガーゼをはがすのが「激痛だった」というが、湿潤療法では「痛みはなかった」。現在は軽い打撲程度の赤みが残っているだけだという。
 外傷治療は、従来は傷口を乾かしてかさぶたをつくる治し方が主流だった。一方、湿潤療法は傷口にしみ出す体液(滲出(しんしゅつ)液)の働きを生かす。体液には細胞の成長や再生を促す働きがある。同療法用のばんそうこうで傷口を覆うことで、体液で傷口を満たし細胞を再生させる。
 同療法に詳しい市岡滋・埼玉医科大教授(形成外科)は利点に「早く治ること」を挙げ、「傷口は慢性化させると跡が残りやすい。早く治ることはきれいに治ることにつながる」と説明する。柿田副院長も「従来の方法(乾燥)で一週間かかる傷が、三、四日で治る場合が多い。ガーゼを取り換える際などの痛みもない」と話す。
 同療法は一九六二年、英国の動物学者が研究の結果から「傷口は乾燥させるより体液を逃さないように覆った方が早く治る」と提唱したのを契機に知られるようになった。国内では現在、やけどやすり傷などの治療のほか、長期療養による床ずれの治療などに広く取り入れられている。
 正しく湿潤療法を行うには注意点がある。化膿を防ぐため、傷口を水でよく洗い、汚れや異物を取り除く。けがのケースにもよるが、消毒薬は基本的には使わないことが多い。細胞の再生などを助ける成分の働きを妨げるためだ。
 同療法用の家庭用ばんそうこうも各医薬品メーカーから発売されている。製品によっては傷口に異常があったり、はがれたり体液が漏れていない限り、数日間は使用できるという。
 ただ、ばんそうこうの張りっ放しもよくない。市岡教授は「傷口の観察を忘れずに。痛みや赤み、腫れが見られたら医師に相談して」と話す。
 同療法に適さない傷もある。市岡教授は「傷口を閉鎖するので、感染(化膿)を助長する可能性がある。動物にかまれたときや傷に異物が入り込んで取れない場合は受診した方がよい」と指摘する。
 柿田副院長も「軽いやけどや浅いすり傷はいいが、深い傷は家庭では行わず受診してほしい」とアドバイスする。感染症である水いぼ、とびひのほか、虫の毒が傷口に残る虫刺され、菌が残るにきびも同療法は悪化させる懸念がある。
(東京)

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