Wednesday, June 02, 2010

トコロジスト

身近な森などの動植物だけでなく、歴史や文化にも精通した「その場所の専門家」のこと。自然に親しみ守り育てることに関心が広がるなか、地元デビューし、トコロジストを目指すシニア世代もいる。(飯田克志)
新緑がまぶしい神奈川県大和市の上和田野鳥の森。近くに住む福島錦一さん(68)、弘中健一さん(66)、佐藤正一さん(57)は今春、わき水もあるこの森(約四ヘクタール)のトコロジストを目指し活動を始めた。
 福島さんは「会社人間で地元を全然知らなかった。森を知れば知るほど楽しくなると思う」、エンジニアだった弘中さんは「森のことを知ってもらおうとホームページをつくった」と話す。
 トコロジストは、同県平塚市の市博物館元館長で神奈川大教授(地域自然史)だった故・浜口哲一さんが、二〇〇四年に提言した。
 かかわった行政の緑地保全計画や河川改修などで、それぞれの分野の専門家が意見を主張し、議論がかみ合わない場面に何度も遭遇したからだ。よりよい自然保護や環境保全を実現していくには、「その場所」を多面的に知り、愛着があるコーディネーター役の必要性を痛感した。
 トコロジストとは、「所(トコロ)」と、英語で専門家を意味する接尾語「イスト」を組み合わせた造語。浜口さんの知人で、同県大磯町でアオバトを仲間と研究していた田端裕さん(72)が考えた。
 「場所」に視点を置いたトコロジストは、近くに暮らしている市民だからこそできる活動だ。緑地保全などで市民の協力を期待する自治体も関心を持った。
 大和市は昨年度からトコロジスト養成講座を開始。前出の福島さんたちはその一期生だ。横浜市も本年度、同様の存在となる「はまレンジャー」の養成講座を始めた。受講生の多くがシニアという。
 トコロジストはどんなことをするのか。浜口さんらと養成講座を企画した日本野鳥の会職員箱田敦只さん(46)によると、森などの動植物や市民の利用状況など「場所」について、まず情報収集が役目。その情報を市民に伝え自然と市民のつなぎ役となる。さらに蓄積した情報を活用し、保全に取り組む。「植物や鳥の専門家を縦糸とすると、横糸として連携することでコーディネーターとしての活動も広がる」
 すでに各地でトコロジスト的に活動してきた人もいる。三浦半島自然保護の会の鈴木茂也会長(52)=同県横須賀市=は自宅から車で約十五分の二子山へ二十年間通っている。
 日本野鳥の会神奈川の代表でもあり、十二年前からは野鳥調査も続け、地元の小学校で話したり、行政の緑の保全計画の策定にも参加した。
 「二十年も通うとは思わなかったけれど、つぼみだった花が数日後に咲くとか、いつ来ても変化や発見があって面白い。顔見知りの人も増えると、居心地が良くなる」
 先達の活動を知るとトコロジストへの道のりは遠そうに感じるが、前出の福島さんらは森の生物地図づくりから始め、佐藤さんは「将来は小中学生に森で課外授業をしたい」と意気込む。
 箱田さんは「まず地図を持って、歩いてみて」と助言する。(東京)

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